熱間等方圧加圧装置(Hot Isostatic Pressing:HIP)は、高温と高圧を同時に材料に与えて緻密化や欠陥除去、接合を行う技術・装置のことです。
1955年に米国バッテル研究所で初めて開発され、航空機用鋳造材の内部欠陥除去を目的として実用化されました。その後、セラミックスの緻密化や粉末焼結、異種材料の拡散接合など幅広い分野で活用されています。
日本国内では1980年代後半から生産設備が普及し、現在では多くの産業で欠かせない後処理技術として使用されています。
HIPでは、不活性ガス(主にアルゴン)を圧力媒体として材料を全方向均一に加圧します。圧力は数10〜200MPa、温度は数百度から最大約2000℃に制御され、全方向から等しく力を加えることで材料内部の空孔や気孔を効果的に閉塞させ、拡散現象を促進して高密度化を行います。
なお、1000℃、98MPaの条件下ではアルゴンガスの密度や熱膨張係数から激しい対流が生じ、熱伝達効率が向上するため、通常の電気炉より短時間での処理が可能となるでしょう。
ホットプレスは一軸方向からのみ加圧するため、金型形状に応じた変形が生じやすく、一部凹凸部では十分な圧力がかからないことがあります。これに対してHIPは全方位から等方的に加圧するため、初期形状をほぼ維持したまま均一な収縮・緻密化ができます。
また、HIPは金型との摩擦不均一や金型材強度による寸法制約が少ないので、大型部品の加工や高温成形にも利用できる点もホットプレスとの違いといえるでしょう。
HIPは全方向からの等方圧により、複雑形状部品でも特定部位に応力集中が起こらず、材料内部の空孔を均一に閉塞させることができます。
メリットとして、圧縮残留応力の低減や結晶粒の均一微細化・疲労強度や耐クリープ性・耐摩耗性などが大きく向上します。
高温・高圧を同時に制御するHIPは初期投資やエネルギーコストが高くなりますが、後工程の機械加工量削減やスクラップ率低減によってトータルTCO(総保有コスト)を抑制できます。
特にネットシェイプ製造との組み合わせにより、材料歩留まりや歩留まり向上効果が得られ、長期的にはコストメリットが得られます。
金属粉末焼結にHIPを適用すると、粉末間の接触点がガス圧と高温で効果的に拡散接合し、従来の真空焼結では達成の難しい高密度化(気孔率1%未満)が可能となります。
特にNi基超合金やTi合金など航空機エンジン部品に用いられる高温合金においては、耐疲労性や耐クリープ性が向上することが知られています。
Si₃N₄やAl₂O₃などのセラミックス粉末にHIP処理を施すと、焼結体に残存する微細な空孔やクラックを完全に閉塞し、密度99.9%以上の緻密体を得ることが可能です。
従来の焼結体では課題であった曲げ強度や耐摩耗性、耐熱衝撃性が顕著に改善されるので、自動車用刃具や電子部品、ベアリングなど幅広い領域で信頼性の高い製品づくりにも利用されます。
HIPは金属と金属だけでなく、金属とセラミックスやセラミックス間の拡散接合に用いることができます。
高温高圧下で両材料界面に強力な接合力を発生させ、異種材料間の界面結合や拡散層を形成させて、複合材料部品の一体成形が行えます。
原子炉用燃料集合体や耐食・耐摩耗部品など、高い接合強度と耐環境性が求められる分野での実用化が進んでいます。
航空機エンジンのタービンディスクやブレードはNi基超合金粉末から成形後、HIP処理によって内部の鋳巣や気孔を完全に除去し、均一な結晶粒組織を形成します。
耐疲労性や耐クリープ性の向上や、安全性と稼働寿命が伸びることから、航空宇宙業界で最も採用率の高い後加工技術となっています
自動車や産業機械部品の再生にHIP処理が活用できます。ターボチャージャーや高性能ブレーキ部品などの使用中に発生したクラックや内部欠陥を除去し、製品寿命を延長できるのです。
特に高価な材料や複雑形状部品のリペアでは、新品コストの半分以下で再利用が可能となり、環境負荷低減にも貢献します。
微細構造が性能を左右する電子材料分野でも使用されます。セラミックス基板や磁気ヘッド用ソフトフェライト部品などの製造において、HIPにより気孔率を1%未満に抑えた超高密度の部品製造ができるのです。
この緻密化により、誘電体特性や磁気特性が安定化し、高周波デバイスやMEMS部品の性能向上が行えます。
引用元HP:三庄インダストリー公式HP
(http://www.sanshoindy.com/)
引用元HP:小林工業公式HP
(https://www.kobayashi-akita.co.jp/)
引用元HP:大伸機工公式HP
(https://daishin-kikou.com/)